「新緑の狭山丘陵」の記録。

新緑の狭山丘陵を気儘に歩く
              案内:大森 孟   2010-04-25



  2010年4月29日(木)、狭山丘陵の西の端、野山自然公園付近を歩いてきました。
 明治末期か大正の初めに狭山丘陵を歩いた、画家の太田三郎の「武蔵野の草と人」
 を思い出しながら。

  その時の記録写真を展示して、その素晴らしさを感じ取っていただこうと思いま
 す。

  
     コナラの森   埼玉県所沢市 狭山丘陵で  2010/04/29撮影
     
 
     コナラの森   東京都瑞穂町 野山自然公園で  2010/04/29撮影


画家の太田三郎の「武蔵野の草と人」から!

  不意に林が切れて、朗らかな眺望が目に映ってくるところなどもあった。松樹の  叢立をのせた支脈と支脈とが長く裾を曳いてをるその間へ、湾のようになって入り  込んできた水田がすぐ眼の下に見下ろされたり、散在する茅屋や竹叢などがその面  に、紫の影をつくっていたりした。またそれを距てゝ向こうに連なる丘陵には、尾  根を走る松、中腹の麦畑といったようなものが幽かに認められた。   しかし、私はなお行きゆきした。かつてこの北麓の小手指ヶ原に戦われたあの凄  惨な血戦の時などには、敵の鋭い眼を、漸く芽ぐみかけた林梢のうちに避けてこの  丘陵の中に遁れ入って来たであろう負傷兵の、その太刀など杖にした姿がどんなに  痛ましかったかを想ったり、さらにまた、彼の鳥の羽に書かれた文字を読み分けた  異国の智者の名を冠としたある寺の名称から出立して、遠い昔にこの陵中に棲息し  た民族の上にいろいろな想像を馳せたりしながら、影の密やかな雑樹を縫って上り  下りして行くのは、ともするとかるいふあんをともなったけれど、しかししんみり  とした深い感じを心身に滲ませるものであった。       が、するうちどう踏み違へて来たのか、道はにわかに農家の庭に突き当たった。  芋などを貯蔵しておくいわゆる芋櫃(いもびつ)であろうと思われる土窟(どくつ)  などが斜面の腹にあるのを片側に持つ小径を、一叢の竹林に添って下って行った私  は、やがて大きいある農家の背後の壁に面して立ったのであった。    狭山丘陵の新緑の谷 埼玉県所沢市   2010/04/23撮影    狭山丘陵麓の水田で 埼玉県入間市   2010/04/23撮影

        
   『一寸お訊ねします』
  背戸の敷居ぎわに立って声をかけてみたけれど、大きい屋根の下は寂として人の気配
  もしなかった。煤け光った太い柱、大きい竈、茶褐色の畳、一隅に重ねられた細かい
  唐草の夜具、広く明るい前庭をそのむこうに透かせた縁側には、上がってをる一羽の
  鶏の姿が黒かった。「留守かしら」と思いながら、もう一度声をかけてみた。この家
  を通り抜けてその前へ出てゆくよりほかはなかったから。
  
   と、ややしばらくして、ようやく横の襖の方に衣摺れの音がした。しかし意外であ
  った。すっとそこに現れたのは、白い看護服を暗い周囲に際立たせた若い女の姿であ
  った。
   『は、ちょっと』
  と引っ込んで行った女は、すぐまた出てきて
   『どうぞ御隋意に』
  と云って軽く頭を下げた。影の濃い丘陵の中の草屋根、白い看護服、眼の上に心の上
  に、自然に人事に、いろいろの複雑な交錯をもたらす武蔵野の面白味がまた思われた。
   通り抜けた農家の前のやや広い道をふたたび岐路へ折れて、干されてある白い斑点
  を持った黒糸のかせ(木へんに上下、峠の山を木に置き換えた字)や絣を織る糸のか
  せや製せられた茶の匂いや、若々しい機織唄などの間を行く中に、道はまた自ら林叢
  の中へと上って行っていた。
     
   
     コナラの森  東京都瑞穂町 六道山展望台から  2010/04/24撮影
        
  
     タマノカンアオイ  埼玉県入間市 みどりの博物館  2010/04/24撮影

      


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