風景画家波暮旅二、風景画と随想

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無益な長寿

無益な長寿  波暮 旅二(5)

  

人生は五十年と言われた時代もあったが、今はどうやら八十年になってきた。生気が残っている八十歳もいればヨボヨボの八十歳もいる。

仕事もなく長生きしているのは大変らしい。いずこの観光地にもウロウロ、ヨタヨタ年寄りがさまよっている。何を見ても無感動、観光バスから降りればまず行き先はトイレである。年寄りの観光旅行は言わばトイレ巡りみたいなものかもしれない。

立山黒部ダムに取材で行ったとき、驚いたことにそこにも老人の一団がいた。疲れ果てた様子でベンチに腰を下ろしたままうつむき無口だった。周りの山岳風景など楽しむ体力は残っていないのであろう。

私も七十四歳、仕事ができなくなりヨタヨタ生きながらえるよりは、その前にサッサと天国でも地獄でもいいから旅立ちたいと考えている。

黒部ダム・エレジ−  波暮 旅二(6)

黒部ダム駅に降りて展望台まで登るのにはトンネル内の220段の階段を登らなければならない。階段の下に立って上空遥かかなたに見える出口をながめて、疲れていた私は体力に自信を失い、とても無理だから帰ろう、と妻に言った。

「何言ってんの!ここまで来て引き返す馬鹿があるもんですか」とカツを入れられた。ヒイヒイいいながらやっと出口にでたときは、意識が朦朧として近くのベンチにへたりこんでしまった。

立山連峰の雄大な景色を描くぞ、と意図は勇ましかったが、老兵がヨタヨタやってくる場所ではなかった。わが妻はいかに、と思いきやすこぶる元気で「この辺りが絵になるんじゃない」とまことに気楽なものであった。

 (編者のひとこと)奥さんは偉い!この奥さんあってのこの絵描きさんだ!

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