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菜の花の沖では!読むごとに新たな発見が!

 私の愛読書に、司馬遼太郎の「菜の花の沖」という歴史小説があります。文春文庫にはいっており、全6巻です。江戸時代末期の海商高田屋嘉兵衛の一代記です。

 ちょうど、露西亜の南進政策で、日本の領土である樺太や千島が、侵略されはじめた頃で、高田屋嘉兵衛が、次第にそう言う複雑な問題に巻き込まれ、幕府のご用船頭を務めるようになり、蝦夷地の海産物で、豪商となっていく過程を描いた面白い小説です。

 司馬遼太郎の歴史小説の面白さは、一つの作品の中にフィクションの部分とノンフィクションの部分が、巧みに融合されている点に在ると思います。この点に注目しながら読み進むと、ついついつり込まれて、短時間に読み切ってしまいます。

 そんな立場で、読みながら、見つけた、面白い記述を紹介しましょう。第四巻になるのですが「重蔵」の巻で、

  蝦夷人は、河川と海辺の民であるために、そのくらしのなかで舟の占める
 位置は大きい。
  舟は、大別して三種類ある
  
  チブ(丸木舟)
  ヤラチブ(樹皮舟)
  イタオマチブ(板付け舟)

  重蔵(近藤重蔵)が用いたのは、イタオマチブである。

  構造の上の原理は和船に似ているから、あるいは古い時代、、影響をうけ
 たのであろうか。ただ道具類がすくないために、複雑な操船ができる仕組み
 ではない。

  かつらの木を斧で切りたおし、それを縦半分に割る。割る道具はクサビと
 木槌である。

  縦半分に割れた一方を広く浅くくりぬいて丸木船のようなものをつくる。
 これが舟底になる。

  そのあとは、ふなばたをたかくするために、舟底の両側に板を付ける。そ
 のつなぎ目から水が入らぬよう、山ぶどうのつるをさしこむ。ふなばたと舟
 底の丸木とを接着するのは、縄である。焼け火箸で必要な数だけ穴をあけ、
 そこへ縄を通してしっかりしばりつける。縄は蔓梅もどきちう野生のつるの
 皮を裂いてなったもので、じつにつよい。

  さらに板を締めつけて水密性をよくするため、桜の皮を巻きつけ、その上
 でたいまつの火をあてると、水分が減っていやが上にも締まりがよくなる。

  最後に、横波からの強度をつよくするため、二本の横木をつける。これを
 ウクニツ(肋:あばら)という。

  舟の中央には、帆柱を支えるために横板をとりつける。帆はふつう、草で
 編まれている。

  この舟で使われる推進用の道具は、櫨ではなく、櫂である。蝦夷の言葉で、
 アッサブといい、櫂の柄に穴を開け、船端に突起している心棒にさしこんで、
 漕ぐ。

 とアイヌ人の舟の説明をしています。こういう部分は、司馬遼太郎のフィクションではなく、彼の検分や実地調査に基いて描かれた、いわゆる、『ノンフィクション』と考えられます。

 森林を愛する人にとって、興味のあるところは、舟材に使われている植物です。船体の主要部である、舟底には桂、充填材には山葡萄、綱には蔓梅もどき、防湿には山桜が使われて居る点です。

知里真志保先生の解説に因れば、「蔓梅もどき」は、アイヌ語の呼び名が地方によってことなり、 「はイ・ ブンカル」「レイエ・ブンカル」「チカプ・ブンカル」「に・ハイ」「にカウン・ハイ」「ふ・ハイ」「レたル・ハイ」「ぷンカル・ハイ」などと いわれて いました。

 「ハイ」は内皮の繊維のこと、「ぷンカル」は蔓のことです。「レイエ」は這うことで、チカプは鳥のことです。「に」は木のことで、「に・ハ イ」も「にカウン・ハイ」もほぼ同じ意味で、木の繊維です。「ふ・ハイ」の「ふ」は生のという意味ですから、生の繊維と言うことになります。「レたル」は白いということで、「レたル・ハイ」はしろいせんいということです。「ぷンカル・ハイ」は、上の説明から分かるとおり、蔓の繊維ということです。

 アイヌ人は、蔓梅もどきの皮をはいで、その繊維をとり糸をよったり、縄をなったりしたようです。

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